第4章 水柱のスパルタ稽古
翌朝。
私は借りたままになっていた義勇さんの半々羽織を、隠の方に手伝ってもらって丁寧に洗濯し、シワひとつない状態に整えた。
手に持った羽織からは、まだほんのりと日向のような、そして義勇さんを思い出させる清冽な香りが漂っている。
(……昨日のこと、思い出したらまた顔が熱くなってきた)
あの柔らかい感触と、驚きに目を見開いた義勇さんの顔。
気まずさは最高潮だが、返さないわけにはいかない。
私は意を決して、彼の自室がある離れへと向かった。
「あの……冨岡さん。昨日の羽織を返しに参りました」
戸の外から声をかけるが、返事がない。
(あれ? お留守かな?)
そう思って、もう一度声をかけようとした時、少しだけ開いていた障子の隙間から、中の様子が目に入ってしまった。
「…………」
そこにいたのは、いつもの凛々しい隊服姿ではなく、少し着崩した着物姿の義勇さんだった。
彼は、私が昨日風呂敷に包んで置いていった「お礼の品」――私が隠の方にお願いして、今日のために用意しておいてもらった彼の好物『鮭大根』を前にしていた。
(えっ……?)
私が驚いたのは、その「食べ方」だった。
あの無表情でクールな義勇さんが、これ以上ないほど幸せそうに頬を緩ませ、キラキラとした瞳で鮭大根を見つめている。
「……美味い」
ポツリと独り言を漏らしながら、一口食べるごとに「ふふっ」と、まるで子供のような、無垢で柔らかな笑みを浮かべているのだ。
(ええぇっ!? 義勇さん、笑ってる……!? あんなに幸せそうに!?)
あまりのギャップに、私は言葉を失って立ち尽くした。
昨日のキスの後の、
あの「消えてしまいそうなほど狼狽していた男の人」と同じ人物とは思えない。
すると、視線を感じたのか、義勇さんがハッとこちらを向いた。
「……っ!!」
目が合った瞬間、義勇さんは箸を持ったまま石のように硬直した。
幸せそうだった表情は瞬時に消え去り、今度は昨日よりも激しい勢いで、顔が耳まで真っ赤に染まっていく。
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