第7章 月と白日の元で
突然、隣に座っていた蛍が立ち上がり、私は大きく肩を震わせた。
「父さんたちは好きだから結婚したんでしょ?じゃあ、僕は?僕は好きな子と結婚しちゃいけないって言うの?」
好き?蛍、私のこと好きなの?いつから?いや、そんなの…ずっと前からに決まってる。寝てる私にキスをしていた小さい頃から、気付いていたはずなのに…私はそんな蛍を見ないフリしていた。
「…そんなの、おかしいでしょ!?僕がいつから揺のことを見てたか知らないくせに!やっと…やっと、僕を見てくれたと思ったのに…」
荒々しくなった蛍の声は、怒りよりも悲しみを滲ませていた。まるで、泣いているような声だった。そして、私の方を向いて髪の毛を一束持ち、毛先を掴んで撫でる。
「なんで誰も、僕の気持ちを受け取ってくれないの…なんで、影山なの?ずっと一緒にいたのは僕で…君の初めてを奪ったのも、僕だよ」
壊れた幼馴染の関係も、なり切れなかった兄妹の関係も、幼馴染以上の繋がりを持った関係も…今まで積み上げた関係が、すべて崩れていく。
蛍の悲痛な叫びに必死に涙を堪えた。泣きたいのは、両親でも、私でもなくて…蛍なのだ。涙を流すことのない眼鏡の奥の琥珀が、酷く揺れていた。