第5章 月影に背を向けて
その時、体育館の入り口から少し懐かしい声が響く。全員がそちらを向き、目を輝かせる。卒業した先輩たちだ。潔子さんまでいる。
「揺、坊主の気持ち良さに目覚めたか〜?」
「お兄ちゃん!皆さん!」
すぐに駆け寄り、挨拶をする。この人たちがいたから私たちは一つになり、あんな大舞台まで上り詰めることが出来た。マネージャーの私はほんの少しだけ、みんなが練習をしやすいようにすることしか出来なかったけど、本当に楽しかったし嬉しかったし、悔しかった。
「菅原さん!俺、揺のこともらいます!」
いきなり何を言い出すのかと思い、バッと眩しい程に輝く、光のような影を見た。そして、目を見張った。とても真っ直ぐで綺麗な目をしていたから。
蛍が「あげないから」と呆れている。「お前に言ってねぇ」と騒がしくなる周りが心地良くて、ニコニコ笑っていた。心の中ではずっと二人の間で揺れている。
「"娘さんをください"的な?影山、そんな揺のこと好きなのかぁ…でも、俺に言っても意味ねぇぞ。な、揺!」
兄は私がどうしたいかを言っているのだろう。彼はそういう人だ。飛雄くんが私を好きなのを知っていたようで、私の気持ちにも気付いている。きっと――蛍とのことも、なんとなくは気付いているのだろう。
後で相談があるからと兄に言って、久しぶりにみんなで練習を始める。去年の空気に戻った気がしていた。