第5章 月影に背を向けて
家に着き、部屋に運んでくれる。水を持ってきてくれた母が、そのまま飲ませてくれる。蛍は飛雄くんのタオルを持って部屋を出ていった。
蛍が戻ってくると母は「お願いね」と出ていき、夕飯の準備を始める。濡れたタオルを手にした蛍は、優しく口元を拭いてくれた。
「さっきのタオルは水洗いして、洗濯してるよ」
「ん、ありがとう。ねぇ、蛍。気持ちが知りたい。誰のものでもなく、誤魔化したりもせず…ただ、本当の蛍の気持ちが知りたい」
口を固く閉じた蛍は、タオルで拭いただけの唇に自身のそれを重ねる。拒みたいのに、身体が言うことを聞いてくれない。もうこれ以上、私を苦しめないで。
でもすぐに気付いてしまった。苦しいのは私だけじゃないと。蛍も飛雄くんも苦しんでいるのだと、漠然とそう思った。兄弟になっても関係を続けたい苦しさ、飛雄くんが好きだと言った私は、蛍に深くまで愛されている。
「……気持ちの整理がつくまで、蛍とはしたくない」
「揺を…離したくない。揺を独り占めしていいのは、僕だけでしょ」
「他のとこになんか行かせない」とほんの少し冷たい手に目元を覆われて、落とされていく。静かな月だけが、私の全てを見ていた。