第5章 月影に背を向けて
挨拶が終わると蛍が来て、連れて帰ると腕を引かれる。気持ち悪いからいきなりはやめて…「大丈夫?」と抱えられそうになって、弱々しく抵抗する。揺れて余計気持ち悪くなるからやめて欲しい。
「こいつ、酔ってんだぞ」
「じゃあ、寝てればいい」
蛍に背負われて、咄嗟にタオルで口を押さえる。目を瞑ろう。そしたら、幾らか楽かもしれない。
「飛雄くん…タオル、新しいの返すね。ありがとう…」
「気にすんな。ゆっくり休めよ」
頷いて蛍の肩に蹲る。こんなに酷いの、小さい時以来かもしれない。込み上げる不快な気持ち悪さを沈めるように目を閉じた。
忠と別れて帰路を辿る、蛍の長い足。ほんの少しだけ揺れる背中で、優しい温度を感じていた。夏の夜は、辺りが騒がしかった。リーンリーンやコロコロと合唱を唱えている。
「蛍――もう、やめよう」
「……何を」
二人の静かな声が虫の音に混じり、生温い空気に溶けていく。それ以上私たちは、何も言葉にしなかった。「何を」と言った蛍も、ちゃんと気付いているのだろう。それでも、答えは返ってなかった。