第5章 月影に背を向けて
「うっ…気持ち悪い…」
背中を摩ってくれる、仁花ちゃんに支えられながらバスを降りた。優しくゆっくり仁花ちゃんが運んでくれるのに、いきなりもう片方の腕を取られて上に引き寄せられる。
誰かを確認する余裕もなく視界がぐわんっと歪んで気持ち悪くなり、咄嗟に押さえた指の隙間から液体が吹き出した。口の中が酸っぱい…。
「わり…大丈夫か……って、大丈夫じゃねぇよな」
タオルを口に当てられ、その爽やかな柔軟剤の香りに、少しだけ込み上げる気持ち悪さが落ち着いていく。
ご飯もあまり食べられず、睡眠不足の中、バスに揺られ考え事をしていた。酔ってしまうのも当たり前だろう。元々酔い易いのに…。
「だ、じょぶ……うっ…!」
支えてくれた飛雄くんから離れ自力で歩こうとすると、視界が歪みふらついて吐き気を催す。もう飛雄くんから離れようと思うのに、「大丈夫じゃねぇだろ」と肩を抱かれて歩き出す。
飛雄くんは今抱えたり背負ったりすると余計悪化するのをわかっているのか、支えるだけで、それ以上の介抱をすることはなかった。言葉足らずで不器用で、人の気持ちなんかわからない人のはずなのに…その優しさに支えられて、前へ踏み出した。