第1章 死にたがりに口づけを
「天使くんはどんな能力を持ってるの?」
「言わないよ」
「そっか、まあそうだよね、国家機密だよね」
しゅんとするカナタは、なぜだか萎れかけた花のように儚く見える。
萎れた花に水を。俯くキミに言葉を。天使ぶってみせようか。
「…キミは死が身近だと言ったけどさ、逆だと思うよ」
「逆?」
「簡単な話だよ。だって、奪うのではなく与えるんだから」
「与える…命を…?」
「それは誰にも出来ることじゃないよ」
途端に、天使の悪魔の目に映るカナタは、希望を宿したように瞳を煌めかせた。
「慰めてくれるんだ?優しいんだね」
「…まあ、天使ですから」
「あは、天使で悪魔って矛盾してるなぁ」
カナタは初めて無邪気に笑ってみせる。刹那、天使の悪魔は懐かしさに似た不思議な感覚を覚えてハッとする。なぜだか前にも、誰かとこうして語らったような気がした。
争いは無く、平和で優しさに満ちた日々。そんな記憶、無いはずなのに。
思い出そうとすれば、霧がかかったように記憶が霞み、軽い頭痛がして天使の悪魔は目を伏せた。
「明日からまた頑張ってみようかな。ほんの少し、誰かの役に立てるなら」
カナタの言葉に、天使の悪魔は顔を上げる。
「ふーん、もう飛び降りるのは諦めるんだ?」
「うん、誰かさんのおかげでね」
人の死を望むべきなのに、なぜ安堵するのだろう。実に悪魔らしくない思考である。