第1章 死にたがりに口づけを
動かなくなったカナタを平らな地面に寝かせていると、背後で仕留め損ねた悪魔の呻き声がした。
悪魔は頭に刺さった槍を真っ二つに折り、天使の悪魔目掛けて投げつけた。天使の悪魔がカナタの亡骸を庇った瞬間、槍の破片が片翼と左手を裂いた。
「十年使用」
天使の悪魔がそう言い放つと、銀で出来た細身の長剣が光輪から生成される。
そして、彼女の命が宿ったその剣で、悪魔にとどめを刺したのだった。
「一人でやったのか?」
「まあね」
「被害者は?」
「死んだよ」
早川が駆けつけた先には、討伐された悪魔と、血溜まりの中動かなくなった女性看護師、そして剣を片手に立ち尽くす天使の悪魔の姿があった。
血がついた顔を袖で拭いながら、天使の悪魔は感情を押し殺すように静かに言う。
「どうせもう助からない命だった」
早川は何も答えない。
天使の悪魔は跪くと、カナタを両腕に抱いた。冷たくなる身体を、縋るように抱き締める。
「友達だったんだ」
冷徹な表情だった早川が、その言葉に目を見開く。
「この子と話してると、懐かしい気持ちになった。死んでほしくなかった」
「…そうか」
「悪魔なのに、こんなの変だよね」
「変じゃないだろ……べつに」
キミがいなくても地球は回る。悪魔はのさばり、人間は死ぬ。
でも、なぜだろう。
キミがいないこの世界は、フィルムの一コマが切り取られたみたいに、どこか欠けて退屈だった。