第1章 死にたがりに口づけを
「ねえ、天使くん」
カナタは天使の悪魔に向かい手を伸ばした。
「話聞いてくれてありがとう」
差し出された手を、天使の悪魔は給水タンクから下りずにじっと見据える。
「…なに?」
「友情の握手しない?」
「死んでもしないよ、握手なんか」
「ひどいなぁっ、友達になれたと思ったのに」
カナタは笑ってはいるものの、どこか残念そうだった。手を下げると、背中の後ろで手を組んで、体だけ天使の悪魔へ向けたまま一歩、また一歩と後ろへ下がる。名残惜しいのか、もったいぶっているつもりなのか。
「明日からは仕事行くから、ここで待っててもあたしは来ないよ!」
遠ざかりながら、声を張るカナタ。
「べつに待ってないよ。キミが勝手に、ボクのお気に入りの場所に来てただけ」
これでようやく煩わしい人間がいなくなり、この景色を独り占めできる。それなのに、どうして胸の中が空虚に感じるのだろう。
その理由が分からず、天使の悪魔はじっとカナタを見つめた。答えを彼女が持っている、そんな気がした。