第6章 ほどける心
外からは商店街の音や人の声が微かに聞こえるのに、この狭い空間だけが隔絶されているようだった。
呪「俺は、人と人を入れ替えるのが好きなんだ。」
男は淡々と言いながら、紙袋を持っていた澪の手から荷物を足元に落とした。
野菜が転がる音がやけに遠く響く。
呪「でもな……もっと面白い遊びを思いついた。」
その声は囁きから低い唸りに変わる。
呪「お前を――俺の中に入れる。」
意味が理解できず、澪の瞳が揺れる。
次の瞬間、男の目がぐにゃりと広がり底なしの闇のように変質していく。
背筋に冷たいものが走る。
(……このままじゃ……。)
必死に腕を振りほどこうとするが、力がまったく入らない。
まるで体が薄い膜で覆われ、感覚が遅れて伝わってくるようだ。
呪「怖がらなくて良い。すぐに終わる。」
男はそう言いながら、指先で澪の頬をなぞった。
その動きは人間の恋人のように優しい――
けれど、そこに温かさはなかった。
そして唇が触れそうな距離まで近づいた瞬間、路地の入口から影が差し込んだ――
路地裏に響く湿った空気は、まるでそこだけが現実から切り離された異界のように息苦しく重くのし掛かっていた。
女の背中はざらついた壁に押しつけられ、逃げ場を失った身体は微かに震えている。
目の前にいる呪霊は、その恐怖と動揺を愉快そうに味わいながら獲物を嬲る捕食者のようにじりじりと距離を詰めていた。
呪「……まだ声を殺そうとするんだな。可愛い。」
低く湿った声が耳元を舐めるように流れ込む。
女は首を振り必死に否定するような仕草を見せるが、それすらも呪霊の愉しみを増すだけだった。
触れられるたびに粘ついた瘴気が肌にまとわりつき、じわりと熱を吸い取るように感覚を狂わせていく。
細く震える喉から、抑えきれない吐息がもれてしまう。