第6章 ほどける心
悟の青い瞳が、いつもの軽さではなく底に鋭い光を秘めて自分を射抜いている。
「……本当に、今そんなことしてる場合じゃ——。」
最後まで言えなかった。
唇に触れる感覚が唐突に訪れ、思考が一瞬で途切れた。
柔らかいはずの唇は、逃げられないようにかすかに噛みつくような強さを帯びている。
1拍遅れて、澪は両手で彼の胸を押すが背中は棚に押し付けられたままで動けない。
「……んっ。」
小さな声が洩れると甚爾は満足そうに口角を上げ、そのまま耳元で囁いた。
甚「やっぱり反応するじゃねぇか。」
彼の手が、腰骨のあたりをなぞるように動く。
悟の体格と力を完全に使いこなしているせいで、その支配感は容赦がない。
甚「なぁ、このままここでするか? 保管室なんて、誰もわざわざ覗きに来ねぇよ。」
背中の棚から伝わる冷たい感触と前から押し寄せる熱の対比が、息苦しさを増していく。
「……だ、誰か来たら……。」
絞り出すように言っても、甚爾は意にも介さない。
むしろその危うさを楽しんでいるようだった。
甚「来たら、そのときは悟の顔で堂々としてりゃ良い。…“お前が誘惑してきた”って言えば、信じるやつもいるかもな。」
意地悪く笑う声に、心臓が嫌な意味で跳ねる。
そのとき、廊下の遠くから足音が微かに響いた。
澪は反射的に息を呑むが、甚爾は全く離れようとしない。
甚「……ほら、試されてるぞ。動けよ、拒むなら。」
拒むことはできる——
はずなのに、足が動かない。
そして彼の手は静かに腰から背へと回り込み、逃げ道を完全に塞いでいた。
裸電球の下で2人だけの時間が、じわじわと濃度を増していく。