第6章 ほどける心
保管室の中は、昼間だというのに酷く薄暗かった。
分厚い鉄扉が閉まる音が響くと外界の空気が遮断され、急に静けさが重くのし掛かる。
棚に並ぶ古びたファイルや巻物からは、埃と古紙の匂いが漂い灯された裸電球の光が狭い範囲だけを淡く照らしていた。
澪は、1冊の記録簿を手にしてページを繰っていた。
そこには“入れ替わりに類する術式を有する呪霊の目撃例”とだけあり詳細な名前や等級、術式の性質は書かれていない。
「……これ、本当に居るのかな。」
ぽつりと呟く声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
隣で別の棚を物色していた甚爾が、くすりと笑う。
甚「居るかどうかなんて、正直どっちでも良いだろ。早く元に戻りたいってだけだ。」
「もちろんそうだけど……。」
言いかけたとき、背後からふっと影が差した。
甚爾が、何の前触れもなく距離を詰めてきたのだ。
長身の影が覆いかぶさり、澪は無意識に1歩後ずさる。
しかし、すぐ背中が棚にぶつかって逃げ場が消えた。
「……な、何?」
息が詰まりそうになるのを押し殺しながら問いかけると甚爾は片手で棚の横を押さえ、彼女を囲い込む。
甚「2人きりになったら、やることなんて決まってんだろ。」
低く悟の声色で囁かれるその響きに、胸の奥がざわつく。
「……や、やめて。ここ、高専だよ。」
か細い声で制止しても、彼の表情は全く揺らがない。
むしろ、その笑みは意地悪く深まっていく。
甚「外に聞こえなきゃ問題ない。…なぁ、こうやって悟の顔で迫られるの、どう感じる?」
言葉と同時に、頬に指先が触れる。
白い指は冷たくも熱くもないのに、その存在感がやけに鮮明に感じられた。
「や、やめ……。」
逃げようと腕を押すが悟の身体の腕力は想像以上で、びくともしない。
甚爾はさらに顔を近づけ、吐息が耳をかすめる距離まで迫った。
甚「抵抗する割には、逃げないじゃねぇか。」
耳朶をかすめる低い笑い声が、背筋をじわじわと這い上がる。
澪は必死に目線を逸らし本のページに視線を落とそうとするが、指先を顎にかけられ無理やり顔を上げさせられた。
甚「ほら、俺の目を見ろ。」
強引な仕草に心拍が早まる。