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俺の名は

第1章 君の影


歩き出した彼女の背を追いながら、甚爾は内心で計画を組み直していた。

悟の人間関係を利用して、関係者から情報を引き出す。

夏油の不在はチャンスだし、幼なじみの女は導線としては最適だ。

高専の施設配置、呪具の保管場所、教員や学生の動き……

全てを洗いざらい頭に叩き込む。

――それができりゃ、この身体の価値も少しは使えるもんになる。

食堂の扉が開き、昼の喧騒が耳に飛び込んできた。

学生や教員たちが悟の姿に気づいて振り返る。

その視線の中を、甚爾はまるで王様のような顔で歩く。

悟の、この外見と存在感は情報を引き出すにはうってつけだ。

――悪くねぇ。

口元に浮かんだ笑みは、もはや悟の軽薄な笑みと区別がつかないほど自然になっていた。



彼女は肩で息をつきながら言葉を続けた。

「ほんと、少しは時間守ろうよ。先生たちも呆れてたんだから。」

甚「まぁまぁ、そんな怒んなって。」

甚爾はポケットに手を突っ込み、悟らしい軽薄な調子で笑った。
 
「ほら、行こう。あんまりじろじろ見てると変な噂立つよ。」

甚「心配すんな、俺はいつだって注目の的だ。」

――そうだ、注目されることを逆手に取れば良い。

悟の顔と声なら、欲しい情報も自然と耳に入ってくる。

今日からしばらく、この高専は俺の狩場だ。







先を歩く彼女がふと立ち止まり、振り返る。

「……ねぇ、悟。」

呼び止められた甚爾は、足を止めて片眉を上げた。

甚「ん?」

「なんか、今日のあんた……喋り方、違わない?」

その言葉に、甚爾の心の中で警鐘が鳴った。

――ちっ、もう気づきやがったか。

悟の声色は真似できても、口調や間合いまでは完全には把握していない。

今までの会話も、悟特有の軽口にしては少し硬かったのだろう。

しかもこの女は、幼なじみだ。

日常の細かい癖まで知っている。

甚「違うって、何が?」

甚爾は悟の笑みを崩さず、肩をすくめてみせる。

「ほら、いつもはもっとこう……言葉の切り方とか、冗談っぽさが違うんだよね。今日は、なんか低めっていうか、間が短いっていうか。」

内心で

甚(そこまで見てんのか。)

と舌打ちしそうになるが、顔には出さない。
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