第1章 君の影
彼女は呆れたように息をつく。
「ほんっと、昔から変わらないんだから。傑、1人で任務に行っちゃったんだよ? しかも長期間になるって。」
――夏油が、1人で長期間の任務。
甚爾の脳裏で、状況が素早く組み上がる。
悟の1番近しい協力者がしばらく不在ということは、こいつの周りに空白ができる。
その間に、この高専の情報を好き放題漁れるってわけだ。
甚爾はにやりと笑った。
もっとも、その笑みは悟の顔で浮かべると、ただの自信家のそれに見える。
甚「ふーん、そうなのか。じゃあ俺、暇だな。」
「暇って……悟、次の任務の確認くらいしなさいよ。」
甚「まぁまぁ。それよりさ……お前、俺の幼なじみだったよな?」
その問いに、彼女はきょとんと目を瞬かせた。
「なに? 急に。忘れたの?」
甚「いや、ちょっと確認だ。昔から色々知ってるだろ、俺の事とか、高専の事とか。」
「……なんか怪しいなぁ。」
彼女は疑うように目を細めたが、すぐに苦笑いを浮かべる。
「ま、悟がそういう調子なのは今に始まったことじゃないけど。どうせまた何か企んでるんでしょ?」
――鋭ぇな。だがその割に、こいつは油断してやがる。
甚「そうそう、企みってやつだ。」
甚爾は悟の調子を真似て、片手をひらひらと振った。
甚「じゃあ、ちょっと案内してくれよ。久しぶりに色々見て回りたい気分だ。」
彼女は少し考えてから、肩をすくめた。
「……まぁ良いけど。午後は空いてるし。あ、でも今は昼ごはんの時間だから、その前に食堂行かない?」
甚「おう、腹も減ってたとこだ。」