第5章 心に宿る、君の声
夜蛾はゆっくりと歩み寄り、2人の距離を縮める。
夜「体の入れ替わり…術式として存在はする。だがそんな呪霊は滅多にいないし、遭遇すれば厄介だ。大半は長期的な呪縛を伴う。」
甚「解除条件は?」
甚爾が即座に食いつく。
夜蛾は小さく鼻を鳴らした。
夜「条件はケースごとに違う。互いの同意が必要な場合もあれば、特定の行為や契約を破棄しなきゃならんこともある。呪霊によっては…片方が死ななきゃ戻らん場合すらある。」
その言葉に、澪は思わず顔を上げた。
「…死ぬ?」
夜蛾は無造作に頷く。
夜「呪いってのはそういうもんだ。」
沈黙が落ちた。
遠くで鳥の鳴き声が聞こえる中、甚爾は視線を逸らさず夜蛾を睨むように見ていた。
やがて、低い声で言う。
甚「…その情報、もっと詳しく分かる場所はあるか。」
夜「保管室だな。古い任務記録や呪霊データが保管されてる。鍵は俺が持ってる。」
夜蛾はそう言い、ポケットから金属の鍵束を取り出して見せた。
だが、すぐには渡さない。
夜「ただし、貸すには条件がある。…お前、本当に悟か?」
その問いに、澪は息を止めた。
甚爾は、ほんの一瞬だけ笑みを消した後、悟らしい飄々とした笑みを浮かべ直す。
甚「他に誰に見える?」
夜蛾はしばらく無言で見据え、それ以上は追及しなかった。
夜「ついてこい。変なことしたら、叩き出すからな。」
そう言い残し、夜蛾は校舎の奥へ歩き出す。
2人は無言でその背を追った。
磨かれた廊下に靴音だけが響き、空気は少しずつ冷えていく。
——澪はこの時、強く感じていた。
夜蛾はきっと、何かを勘づいている。
それでも黙って案内するということは、こちらの出方を見ているのだ。
廊下の奥にある分厚い鉄扉の前で、夜蛾が立ち止まった。
鍵が回され、扉が重い音を立てて開く。