第5章 心に宿る、君の声
高専の正門前。
朝の光はすでに高く、敷地内の古い瓦屋根と校舎の影が鮮やかに輪郭を描いている。
だが、門をくぐる2人の足取りは重かった。
甚爾は長身の姿に白髪と蒼い瞳を乗せたままポケットに手を突っ込み、気怠そうに歩く。
隣を歩く澪は無意識に歩幅を合わせながらも、胸の奥でざわめく感覚を押さえきれずにいた。
何度も周囲を見回した。
ここは呪術高専——
悟が通う学校であり、普通の人間なら容易に立ち入れない場所だ。
「本当に大丈夫なの?」
小さく問いかけると、甚爾は口の端だけを上げてみせた。
甚「大丈夫だ。顔がコレだからな。多少のことは誤魔化せる。」
彼の言葉に安心するどころか、逆に心臓が早鐘を打つ。
この男が中身甚爾であることを、周りの人間は知らない——
それはつまり、1歩間違えれば大騒ぎになる状況だ。
校舎に近づくと、道の先で腕を組む人影が立っていた。
短く刈り上げた髪、頬に刻まれた無骨な皺。
鋭い目つきに分厚い体格。
夜蛾正道——
まだ学長ではないが、この頃から既に学生や若手術師から畏れられる現役の教師だった。
夜「おい、悟。お前、授業サボってんのか?」
開口1番、低く太い声で吐き捨てられる。
澪の背筋がびくりと震えたが、甚爾は肩を竦めただけだった。
甚「悪ぃな先生、今日は真面目な用事だ。」
夜「真面目な用事、ねぇ…お前の口からそれが出るとはな。」
夜蛾は呆れ顔で2人を見やるが、その視線の奥には警戒があった。
夜「で、用件は?」
甚爾は片手をポケットから出し、軽く顎を上げる。
甚「…体を入れ替える能力を持った呪霊について、知ってることを教えてほしい。」
その瞬間、夜蛾の眉間に皺が寄った。
夜「入れ替わり…? お前、また変な呪具でも拾ったのか。」
甚「違ぇよ。」
声色こそ悟のものだが、その切り返しの鋭さはいつもの悟とは違う。
夜蛾は一瞬目を細め、その違和感を探るように凝視した。
夜「…理由を聞こうか。」
甚「理由は単純だ。知り合いが入れ替わった。戻す方法を探してる。」
澪は唇をきつく結び、目線を落とす。
嘘ではない。
だが、その“知り合い”が目の前のこの男であることを、どう説明できるだろうか。