第5章 心に宿る、君の声
その無言の圧力さえも、甚爾にとっては格好の餌だった。
甚「特に、お前の声だ。あれは笑える。必死に抑えようとして、結局乱れて…。」
彼はわざとゆっくりと指先を耳元に当て、思い出すように目を細める。
甚「“やめろ”とか“もう”って、泣きそうな声で何度も言ってたな。」
澪の頬に血が上る。
否定しようとしても、喉がうまく動かない。
悟の横顔には確かに苛立ちが浮かんでいるが、それ以上に奥底に燃える何かが見えた。
甚「お前の女、なかなか良い声出すじゃねぇか。」
甚爾は今度は澪をまっすぐ見据え、唇を吊り上げた。
甚「腰も、正直でよ…こっちが動くたびに、勝手に合わせてきやがる。」
悟「……黙れ。」
悟の声は低く、だが確実に温度を失っていく。
甚「黙らせたいなら、どうする?」
挑発するように1歩近づき、悟の間合いに踏み込む。
悟の腕がわずかに動いた瞬間、甚爾はあざけるように笑い、すっと引いた。
甚「まぁ良い。俺はもう十分楽しんだ。」
その言葉と共に、ドアの前まで歩みを進める。
だが手をかけたところで立ち止まり、半ば振り返った。
悟と澪の両方を一瞥し、目尻を吊り上げる。
甚「お前も、こいつも――淫乱だ。」
低く、はっきりと吐き出されたその言葉は耳の奥に焼きつく。
澪の心臓が激しく跳ね、悟の呼吸が一瞬止まる。
そして甚は鼻で笑い、ドアを押し開けた。
足音が廊下に響き、やがて遠ざかっていく。
残された部屋には怒気を押し殺す悟と、膝の奥がわずかに震える澪だけ。
沈黙は、何よりも重かった。