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俺の名は

第5章 心に宿る、君の声


朝の空気はまだ少しひんやりとしていた。

けれど、胸の奥にこびりついた昨夜の熱とざらつきは消えていない。

澪は重い瞼をこすり、ため息をつきながら寝室のドアを開けた。

スリッパが廊下を擦る音だけが響く。

無言でリビングへ向かうと――

ソファに深く腰を沈め片肘を背もたれにかけた甚爾が、薄い笑みを浮かべていた。

甚「…おはよう。」

低く落ち着いた声。

だが、瞳の奥には完全に愉しむ色が宿っている。

「……。」

返事をする気になれず、冷蔵庫に向かう。

けれど、その視線は背中に刺さったままだ。

甚「なぁ…あいつとの夜は、そんなに良かったか?」

その一言に、澪の足が止まる。

視線を背後に向けず、コップを手に取る。

甚「そんな必死な声、俺にもしといてくれりゃ良かったのによ。」

わざと間を空け、低く笑う。

甚「“もっと…”だっけ? あの甘ったるい声。聞こえてきそうだ。」

氷を入れたコップに水を注ぐ手が、わずかに震えた。

その揺れを見逃すはずもなく、甚爾はゆっくりと立ち上がる。

ソファからキッチンまで、靴底を鳴らさぬよう忍び寄る足音。

「…やめて。」

澪が口を開く前に、背後に影が落ちる。

首筋に掛かる熱い吐息。

次の瞬間、耳元すれすれに声が落ちた。

甚「淫乱。」

短く抉るようなその言葉に、息が詰まる。

心臓が喉の奥まで競り上がり、足元が不安定になる。

甚爾はその反応を楽しむように、口角を上げたまま笑う。
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