第4章 本物の熱
悟「……何が言いたい。」
悟の低い声に、甚爾は口の端をゆっくりと吊り上げた。
甚「俺はさ、お前と違って澪をちゃんと“満足”させてやってるって話。」
悟の瞳が鋭く細められる。
悟「……は?」
甚「最後までしてるって言ってんだよ。」
軽い調子で放たれたその一言は、悟の胸の奥をざらついた刃で切りつけるように響いた。
悟は無意識に拳を握り締めていた。
悟「……お前。」
甚「何だよ、そんな顔すんなよ。お前だって、俺の女とキスしてんじゃねぇか。」
甚爾はわざと軽口を叩くように言いながら、ソファの背もたれに肘をかける。
その顔は悟の顔をしていながら、間違いなく甚爾の性格を宿していた。
悟「お前……それ、本気で言ってんのか?」
甚「嘘ついてどうすんだよ。あいつだって……お前より俺と居る方が、ずっと顔が蕩けてたぜ。」
耳障りなほど軽く吐き出された言葉に、悟の胸が灼けるように熱くなる。
感情の奥底から、嫉妬と怒りが溢れ出してきた。
悟「……てめぇ。」
悟が低く唸るように言った瞬間、甚爾はわざとらしく笑い声を上げた。
甚「おっと、手ぇ出すのはやめとけよ? この顔、壊したらお前が困るだろ。」
その言葉は正論であり、同時に悟の苛立ちをさらに煽るものだった。
互いの視線がぶつかり合い、部屋の中の空気が一気に張り詰める。
だがその緊張を破ったのは、甚爾の飄々とした口調だった。
甚「ま、俺は俺で澪を気に入ってんだよ。あの反応は癖になる。」
悟「黙れ……。」
甚「お前がそうやって突き放すから、あいつこっちに来るんじゃねぇの?」
悟は言葉を返せなかった。
反論しようと口を開きかけても、思考の奥に浮かんでくるのは澪の悲しそうな表情ばかりだ。
それを見抜いたように、甚爾はさらに追い打ちをかけた。
甚「俺と居るときのあいつの顔、見たことねぇだろ?」
悟の喉の奥から、低く押し殺した息が漏れる。
悟「……この状況、すぐに終わらせる。」
甚「そうしろよ。けど、終わるまでに……俺は遠慮しねぇけどな。」
甚爾は挑発を残し、ゆったりとした足取りで部屋を出ていった。
残された悟は拳をほどき、深く息を吐いた。
その胸の奥には冷たい怒りと、どうしようもない焦りが渦巻いていた。
――このままじゃ、あいつを取られる。