第4章 本物の熱
部屋の空気は重く、湿った布をかぶせられたように息苦しかった。
澪は両腕を抱きしめるようにして、悟の目を真っ直ぐに見据えていた。
「……なんで、その女とキスなんかしたの?」
声は震えていたが、そこには確かな怒りと悲しみが混じっている。
悟は片眉を上げ、ふっと息を吐いた。
悟「……ああ、あれか。別に深い意味なんてねぇよ。」
「……意味がないって、どういうこと?」
悟「面倒にならないように、だ。あいつ、しつこかったからな。」
それは、感情をすべて削ぎ落としたような平坦な口調だった。
澪の胸の奥に、じわりと冷たいものが広がっていく。
これほど心を乱した出来事が、この男にとっては“面倒にならないため”のひとことで片付けられる。
目の奥が熱くなり、これ以上悟の顔を見ているのがつらくなった。
「……そう。なら、もう良い。」
それだけ言って彼女は踵を返し、自室のドアを勢いよく閉めた。
鈍い音が狭いホテルの部屋に響く。
ひとり残された悟は、深くため息をついた。
悟「……チッ。」
舌打ちしながらソファに腰を下ろすと、背後から呑気な声が降ってきた。
甚「お前、ずいぶんと冷たいじゃねぇか。」
振り向くと、そこには自分の姿をした甚爾が腕を組み、にやにやと笑って立っていた。
悟「……見てたのかよ。」
甚「聞こえてた。声、でけぇんだよお前ら。」
悟は眉間に皺を寄せる。
悟「……別に良いだろ。ああでも言っとかねぇと、余計こじれる。」
甚「ははっ、こじれるのはお前のやり方のせいじゃねぇの?」
甚爾はわざとらしく首を傾げ、挑発するような視線を送ってくる。