第4章 本物の熱
袋をテーブルに置く音が、わずかに強くなる。
悟「……“そんなわけない”ねぇ。」
低く、押し殺した声。
瞳の奥には、冗談では済まされない色が宿っていた。
悟「お前……何してた?」
言葉には棘が混じり、室内の空気が一瞬で冷え込む。
澪は目を逸らし、否定だけを繰り返した。
「何もしてない。」
悟「顔、赤いぞ。」
「……暑いだけ。」
そのやり取りを横で見ていた甚爾は、くつくつと笑い悟の方へ顔を向ける。
甚「おいおい、そんなに怒るなよ。第一……お前だって、俺のセフレとキスしただろ?」
冗談めかして言い放つが、瞳の奥にちらりと光る意地悪さは隠しきれない。
澪は、瞬間的に心臓を締めつけられるような感覚を覚えた。
――“俺のセフレ”
その言葉が、耳に残って離れない。
たとえ冗談だと分かっていても、胸の奥に鈍い痛みが広がっていく。
悟の目がさらに細くなった。
悟「……は?」
声は冷え切っていて、笑みは欠片もない。
甚爾はあえて肩を竦め、無防備な笑顔を見せる。
甚「冗談だって。……もしかしたら本当かもな。」
その言葉に、澪は息を呑んだ。
自分の中で湧き上がる不安と苛立ちを悟が読み取ったかのように、彼の視線が一瞬だけこちらに向く。
その瞳の中には、怒りと――
ほんの僅かな傷つきが混ざっていた。
悟「……くだらねぇ。」
悟は短く吐き捨て冷蔵庫へと向かう。
背中から漂うのは、明らかな不機嫌さ。
甚爾はそれを面白そうに眺めながら、澪の耳元に顔を近づけた。
甚「なぁ……俺といた時間、ほんとは嫌じゃなかったんだろ?」
吐息が首筋をかすめ、体温が近くなる。
澪は唇を噛み、視線を逸らした。
胸の奥では、さっきの“セフレ”という言葉がまだ棘のように刺さっていた。
否定すれば楽になるのに、なぜかその言葉を口にできないまま――
悟の冷えた視線と甚爾の挑発の間に立たされていることが、酷く息苦しかった。