第4章 本物の熱
否定すれば良いのに、唇が言葉を紡がなかった。
それを沈黙の肯定と受け取ったのか、甚爾の笑みが深まる。
唇が触れそうになったその時――。
澪は反射的に手で彼の胸を押した。
だが悟の体は筋肉も骨格も大きく、押し返す力はほとんど伝わらない。
「……ダメ。」
甚「何が? あの日は、あんなに素直だったくせに。」
耳元に低く落ちる声は、意識を掻き乱す。
その瞬間、玄関の方で鍵の回る音がした。
澪は跳ねるように距離を取った。
甚爾は、何事もなかったかのようにソファに腰を下ろす。
直後、悟が袋を抱えて帰ってくる。
悟「……何かあったか?」
悟の視線が2人を交互に探る。
澪は首を振った。
だが、その胸の奥には、はっきりとしたざわめきが残っていた――。
玄関の扉が閉まる音がしてから、ほんの数秒。
悟が袋を抱えてリビングに入ってきた。
悟「おー、暇そうにしてんな。ほら、アイス買ってきた。」
朗らかな声とは裏腹に鋭い視線が部屋を一巡し、2人の距離感を測っていた。
甚爾はソファに腰掛けていた澪の隣に、何事もなかったように腰をずらして詰める。
そして悟が視界に入るよう、あえて見せつけるような動作で軽く腕を澪の肩へ回した。
甚「なぁ、コイツと今ちょっと良いとこだったんだぜ。」
茶化すような笑みを浮かべ、顎で彼女を指す。
「――っ!」
澪は反射的に彼の腕を振り払った。
「やめて、そんなわけないでしょ。」
声は強かったが、その頬にはうっすらと紅が差している。
その微妙な反応を、悟は見逃さなかった。