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俺の名は

第3章 偽物の指先


悟は、気付けば足を速めて2人の間に割って入っていた。

澪の腕を引き寄せ、自分の背後に庇うように立たせる。

悟「離せ。お前がどんなつもりか知らねぇが、その姿で澪に触るんじゃねぇ。」

甚「へぇ? 俺の体なら触って良いけど、自分の姿は駄目ってか?」

悟「ふざけんな。それは俺の“顔”だ。」

悟の声は普段より低く感情を抑えたはずなのに、玄関の空気を刺すほど鋭く響いた。

澪は2人のやり取りに戸惑い、視線を行き来させている。

そんな彼女の表情を横目で見て、悟はさらに苛立ちを覚えた。

彼女に余計な不安や混乱を与えたくない――

だが今は、それ以上に甚爾が自分の姿で距離を詰めていることが許せなかった。

甚「お前な、ここの奴らにそんな格好見せて歩いてたらすぐに面倒になるぞ。」

悟「だから何だ? 面倒ごとならお前だって慣れてんだろ。」

甚「……そういう問題じゃねぇ。」

悟は深く息を吐き、ほんの僅かに視線を逸らす。

澪の前で中身の話をするわけにもいかない。

悟「……とにかく、外に出ろ。ここじゃ目立つ。」

腕を掴み、玄関の外へと甚爾を押し出す。

澪は不安げに呼び止めようとしたが、悟は

悟「後で説明する。」

と短く告げて彼女を部屋へ戻した。

外へ出ると、夜風が頬を撫でる。

だが頭の中は冷えるどころか、ますます熱くなるばかりだった。

甚「おい悟、高専内でその姿は本当にまずい。俺が見間違えられて妙な噂でも立ったら、後々面倒になる。」

悟「ははっ、噂くらいどうでも良いだろ。お前、案外小せぇな。」

甚「小せぇ? 俺の評判と信用に関わるんだよ。……それにな。」

悟は1歩近づき、甚爾の胸ぐらを軽く掴む。

悟「澪のことを……俺の姿で、勝手に触るな。」

一瞬、甚爾の表情がわずかに変わった。

笑みを浮かべつつも、その奥で何かを探るような眼差し。

甚「……ああ、なるほど。やっと顔に出たな。」

悟「黙れ。とにかく――元に戻す方法を探すぞ。」

2人の間に一瞬の沈黙が落ちる。
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