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俺の名は

第3章 偽物の指先


振り返らず、聞こえなかったふりをする。

しかし長い脚で一瞬にして距離を詰められ、肩越しに覗き込まれる。

甚「おはよーさん。何避けてんの?」

笑みを浮かべるその顔は、普段通りの悟。

けれど昨夜の熱に浮かされた瞳を知ってしまった澪には、どうにも直視できない。

「……別に。」

小さく返すと悟は片眉を上げ、何かを面白がるような表情を浮かべた。

そこへ、タイミング悪く硝子が合流してきた。

手に持ったファイルを軽く叩きながら、2人を交互に見やる。

硝「……何。朝から痴話げんか?」

「ち、痴話げんかじゃない!」

慌てて否定する澪に、硝子は口元を歪めてニヤリと笑う。

硝「ふーん。じゃあ何? 澪が悟避けるなんて、珍しいじゃん。」

「避けてないってば。」

必死に視線を逸らす彼女を見て、硝子はさらに追撃する。

硝「ま、昨夜なんかあったんでしょ?」

「――っ。」

澪の肩がぴくりと震えたのを、悟――

いや、甚爾は見逃さなかった。

甚(……おもしれぇ。)

内心で笑いを噛み殺しつつ、悟の顔のまま軽口を叩く。

甚「そうそう、昨日はねー……。」

「悟っ!」

慌てて制止する澪。

その反応が、むしろ“図星”を匂わせてしまっていることには気づかない。

甚「……あぁ、昨日はさ、飯食ってただけだって。」

肩を竦めて冗談めかす声は軽いが、その眼差しだけは彼女を射抜くように真っ直ぐ向けられている。

硝子はそんな2人を見比べ、わざとらしくため息をついた。

硝「……ま、良いけどさ。仕事サボってイチャつくなら人目ないとこでやってよ。」

そう言い残し、足早に去っていく。
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