第2章 偽りの肌
女は小さく息を吸い、言い淀みながら口を開いた。
「……その、昼間の……教室でのこと。あれって……どういう意味?」
甚爾は一瞬だけ目を細め、それからわざとらしく口元に笑みを浮かべた。
甚「どういう意味って……そのまんまの意味だろ?」
「……からかってたんでしょ?」
甚「さぁな。そう思いたきゃそう思えば?」
突き放すようでいて、挑発する声音。
女は眉をひそめながらも、1歩も引かずに問い詰めるように見上げてくる。
その眼差しが、甚爾には獲物が罠に近づく瞬間に見えて仕方がなかった。
「……でも、“昔から好きだった”って……あれは……。」
甚「嘘だと思うか?」
「……。」
返答に詰まったその沈黙が、甚爾の笑みを深める。
甚「お前、意外と鈍くせぇな。」
「……何それ。」
甚「俺が誰にでもそんなこと言うと思うか?」
甚爾は片手を壁につき、女との距離をじりじりと詰めた。
廊下の灯りが2人の影を床に長く落とす。
女は後ずさりしそうになりながらも、その場に踏みとどまっている。
甚「答えろよ。……あの時、お前、嫌じゃなかったろ?」
低く囁く声が耳に掛かり、女は思わず息を呑む。
「そ、そんな……。」
甚「顔に出てた。……目が逸らせなかった。」
女の頬が赤く染まっていくのを見て、甚爾は愉快そうに鼻で笑った。
甚「なぁ……あの続き、今ここでしてやろうか?」
「っ……。」
甚「怖いなら逃げても良いぜ? ……でも、もう遅ぇけどな。」
片手が女の顎に触れ、軽く持ち上げる。
視線が絡み合い、女の胸の鼓動が耳に届きそうなほど近い距離。
甚爾の中では、この瞬間が1番甘く、そして相手を縛りつける確かな手応えでもあった。
甚「……俺は、お前をからかってるわけじゃない。」
「……ほんとに?」
甚「信じるか信じないかは、お前次第だ。」
女は視線を揺らしながらも、その場から動けない。
甚爾は悟の笑みを崩さず、しかし瞳の奥に本物の獣の光を忍ばせたまま、女の耳元で低く囁いた。
甚「俺に落とされる覚悟があるなら……このまま部屋に入れよ。」
その言葉が、静かな夜の廊下に落ちた。