第6章 香水
部屋に帰ってすぐシャワーを浴びて、部屋着に着替えた伏黒は買ったばかりの香水を首筋にこすりつけた。冷静になると、五条に対抗意識を燃やして香水まで買ったのがバカみたいに感じる。
鈴はなんて思うだろう。いい香りって五条の時みたいに言ってくれるだろうか。
スマホがぽこぽこ鳴って、鈴からのメッセージが表示される。
『伏黒くん、帰ってる?』
『帰ってるよ』
了解というパンダのスタンプの返信から5分もせずにコンコンコン、とご機嫌なノックの音が聞こえた。
「おじゃましまーす!任務どうだった?」
「二級呪霊だったからな。元の被害も大したことなかったし」
「怪我がなくてよかったぁ」
鈴はにこにこ笑う。この笑顔にはいつも癒される。部屋に上がった鈴はちょこんと伏黒の隣に座った。
晩ごはんどうする?と言いながら鈴は伏黒に寄りかかる。その時違和感に気づいた。
(…この匂い、香水?)
爽やかな香りの中に漂う、ほのかに甘い花の心地よい香り。柔軟剤とは少し違う。上品でいて、でも親しみやすい。
だけど彼は香水なんて今までつけたことないはず。
(確かに今日は任務だったよね?今日会った誰かの…?)
でも普通に接しただけで香水の香りなんて移りっこない。鈴の頭にひとつの可能性が浮かんだ。
ーー浮気、である。