第6章 香水
ドラッグストアで香水のガラス瓶を手に取ると、任務の帰りに一緒に来ていた虎杖が意外そうに伏黒の手元を覗き込んだ。
「どしたの、伏黒って香水つけてたっけ?」
「いや…、やっぱりやめた」
ため息を吐きながら瓶を棚に戻す伏黒に、虎杖はいつも通りうざく絡んだ。
「いーじゃん!俺ウッディ系がいいな。伏黒は?」
「やめたって言ったの聞いてたよな?」
「手首出して、手首!これなんかクールな大人の香りだって」
虎杖はシュッと伏黒の手首に香水をひと吹きした。
「コレじゃない感…」
「整髪料みたいだな」
次々に虎杖は香水を吹きかけた。いろんな香りを嗅ぐうちに鼻が麻痺して、段々とカオスになってきたが何とかコレと思う物が見つかった。
シトラス系の柑橘の爽やかな香りがベースに、ミドルノートで薔薇のフローラルな香りが漂う。ユニセックスで使えるのがウリだという。
「で、なんで香水買ったの?」
「今聞くなよ…」
ドラッグストアを出て、高専への帰り道。今更な虎杖の質問に脱力しつつ、伏黒は昨日の出来事を思い出した。
昨日の授業は五条の担当だった。講義が終わった後、日直の鈴はその彼と談笑しながら黒板を消していた。
ふと何かに気がついたように彼女は五条をじっと見る。
「五条先生、香水変えました?」
「ん?よくわかったね。いつものとこの新作なんだけど」
「だってすごくいい香り…」
伏せ目がちに鈴は差し出された五条の手首に顔を近づける。
「うーん、大人のひとって感じ」
「そう?気に入った?」
「はい!」
その満面の笑みは五条に向けられたもので、つられるように最強の彼も笑う。見つめ合った二人はとてもお似合いに見えた。