第9章 第8話 ― 仲直り ―
バーに行ってから数日。
あれから蓮とはなかなか会えず、私はずっと謝る機会をうかがっていた。
とある平日、定時を迎えて会社を出たところで、
見慣れた背中が視界に入った。
「……蓮?」
振り向いた彼が、少し気まずそうに笑った。
「急にごめんな……。今、話せる?」
「うん。大丈夫だよ。」
私は足を止めて、ちゃんと向き合った。
「その……この間は……悪かった。ちょっと言い過ぎた……」
言葉を探しながら、それでも真正面から謝る蓮に、胸がぎゅっとなる。
「私も……ごめん。」
そう言うと、彼はほっとしたように息をついた。
「よかった……。
良ければ、またライブ来てほしい。
ステージから客席見渡して、お前見つけると……頑張ろうって思えるんや。」
不器用なくせに、急に真っ直ぐなことを言うから、心臓が跳ねた。
「……うん。行くよ。」
そう返すと、蓮は安心したように笑った。
「良かった……。また楽屋にも来てや。」
その笑顔が懐かしくて、嬉しくて、
胸の奥のモヤモヤがゆっくり溶けていった。
やっと仲直りできた。
また、ちゃんと話せる。
私も自然と笑顔になっていた。