第8章 第7話 ― 静かな優しさ ―
蓮と衝突してから数日が経った。
あれ以来話すことができず、胸の奥のモヤモヤは晴れないままだった。
気分を落ち着かせたくて、私はまたあのバーの扉を開けた。
店内は静かで、氷の触れあう音や、シェイカーの優しいリズムだけが響いている。
カウンターの上では、淡い照明がバーテンダーの彼の手元を照らしていた。
席に腰を下ろしたとき、目の前にそっとグラスが置かれた。
「これ……私からのサービスです」
グラスの中には、夜明け前の空みたいに柔らかいオレンジ色。
「名前は“First Light(ファーストライト)”。
夜が明ける前に、最初に差す光です」
そう言って微笑む彼の声は、いつもより少しだけやわらかかった。
その言葉も、カクテルも、
私の胸の奥にそっと灯った。
……蓮に、ちゃんと謝ろう。
そんな風に思えたのは、きっと彼のおかげだ。
気分転換に来てみて、本当によかった。