第11章 第10話 ― 暖かな灯 ―
仕事からの帰り道。
真っ直ぐ帰宅するつもりだったのに、
気がつくと、私はあのバーの入口に立っていた。
扉を開けると、いつものように、
バーテンダーの彼がカウンターの奥で、
暖かな灯りに照らされながら、
静かにシェイカーを振っている。
私は、初めて来た時と同じ、
“トワイライト”を頼んだ。
出来上がるのを待つ間、
いつの間にか、彼の姿に目が向いていた。
改めて注目してみると、
無駄のない所作でシェイカーを振る姿が、とてもオシャレで、
心なしか、いつもよりかっこよく見える気がした。
「よく来てくださいますよね。
気に入っていただけているのでしたら、光栄です」
そう言って、
彼は私の前に、出来上がったカクテルを置いた。
見つめていたのが、
気づかれてしまったのでは、と
ドギマギした私は、
「あ……はい……。
ここは、落ち着いた雰囲気で、
居心地が良いので、好きです……」
と、どこかぎこちなく答えてしまう。
彼は、そんな私の様子には気づかなかったようで、
「それでしたら、よかったです」
とだけ言い、
別のお客さんの注文を取りに行ってしまった。
──いつか、名前とか、聞いてみたいな。
そんなことを思いながら、
私はカクテルに、そっと口をつける。
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
彼のことが、
無性に気になってしまう。
この気持ちは、
何なんだろうか。
分からないまま、
さっきまでのドキドキの余韻を抱えて、
私は、店内に流れる落ち着いたジャズに、
静かに耳を傾けていた。