第20章 特別視点 戦場を見届けた者 本筋ルート(クラウス視点)
戦は終わった。
長く、果てしなく、幾万の命を呑み込み続けた戦争は――ついに幕を閉じたのだ。
勝者は都市同盟。
ハイランドは滅び、旗は降ろされ、剣は土へと沈んだ。
街には人が戻り、子どもたちが笑い、商人たちの声が再び響き始めている。
けれど、胸の奥にあるこの静けさは、決して安堵ではなかった。
***
あの日、父が討たれたときのことを、私は今もはっきりと覚えている。
アガレス王への忠義を貫き、最後まで矛を収めなかった父の姿を。
「これでいい」と、あの人は言った。
「己の正義に背かず終われたのなら、それでいい」と。
それが父らしい最期だった。
戦場に生まれ、戦場で死ぬ――それが父の生き方であり、誇りであった。
だが、それでも。
あの人の背中が、二度と振り返らなかったあの瞬間を、私は一生忘れない。
***
そして――彼らの最期も。
王、ルカ・ブライト。
“白き刃”と呼ばれたアルネリア。
二人は共に、燃え尽きるように死んでいった。
彼が世界を焼き尽くそうとした理由を、私は今でも理解できない。
けれど、ただ一つだけ確かなことがある。
――彼女は、最後までその剣を離さなかった。
主を斬るためではなく、主と共に死ぬために。
あの白い髪が血に染まり、膝をつくその瞬間まで、彼女はただ彼だけを見つめていた。
それが愚かだと、誰が言えるだろう。
それが狂気だと、誰が笑えるだろう。
私はただ、拳を握りしめて見ていることしかできなかった。
それは戦略でも理屈でもなく、“人の心”が選んだ道だったから。
***
そして、あの二人も――。
クルガンとシード。
幾度も戦場を共に駆け抜けた、ハイランド最強の刃たち。
敵として立ち塞がった彼らは、誇り高く、美しく、そして静かに散っていった。
最期まで国を想い、剣を振るい続けたその背中は、たとえ敵であっても、私にとっては敬意以外の何ものでもなかった。
(……強かった)
剣の力だけじゃない。
信念の強さが、意志の重さが、彼らを“強者”たらしめたのだ。
私はその姿を、戦場の端から見ていた。
止めることも、声を掛けることもできなかった。
ただ、見届けるしかなかった。