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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第19章 if 決戦前夜


風の中で、遠い記憶がよみがえる。
砂塵の舞う戦場。
命令を無視して飛び出した白い影。
血を流しながらも、ただひとりの人の傍へと駆けた背中。

(……あれから、俺は……)
どこまで剣として生きられただろう。
どこまで、人としてあがいただろう。

目を閉じる。
暗闇の底に、二つの影が見える。
一人は血に塗れた王。
もう一人は、その傍らに座る白き剣。
――白い髪が風に揺れていた。
戦場を、世界を、そしてこの胸を、照らし続けた色。

二人には、もう、会えない。
だが、確かに、あった。

「……この国のために、戦えて……よかった」

それが、この身に残された最後の言葉。
胸の奥から溢れ出すものは、後悔ではなかった。

ほんの、わずかな微笑みが浮かんだ。
唇が震える。
声にならない声が、風に溶けていく。

「……また、会おう」

世界が、静かになった。
戦の喧噪も、血の匂いも、痛みも、もう届かない。

暗闇の中、アルネリアが振り向く。
白い髪を揺らし、あの夜と同じ微笑みを浮かべて。
その隣に立つ彼は、もう何も言わない。
ただ、黙ってこちらを見ている。

――剣は、ようやく還るべき場所へと帰っていく。

彼は一人の男として、ようやく安らぎを手に入れた。
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