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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第19章 if 決戦前夜


夜は、やけに静かだった。
嵐の前の、あの息が詰まるような沈黙が広がっている。
明日、この手で剣を握り、血と泥と絶望の海へ踏み込むことは分かっていた。
そして、その先に“死”があることも、とうに覚悟している。

――それでも、どうしてもこの部屋の扉は、重かった。

三度、拳を打ちつけてから、そっと扉を開ける。
小さな寝台の上、白い髪が月光に滲んでいた。
浅い呼吸。痛みの残る身体。
それでも、彼女は顔を上げた。まっすぐに、俺を見る。

「……行くのですか」

静かだった。
泣き叫ぶでもなく、縋りつくでもなく、ただ、淡々とした声音だった。
けれど、その奥にある震えは、俺にしか分からない。

「ああ」

それしか言えなかった。
どんな言葉を並べても、真実はそれだけだった。

「……貴方も、私を置いていくのですか」

今度は声が揺れた。
その揺れが、俺の胸を刺す。

「すまない」

小さな言葉が、刃よりも深く胸に刺さる。
これが彼女をどれほど傷つけるか、分かっていて、それでも、口にするしかなかった。

「どうして……」
唇が震え、声が喉の奥で軋んだ。
「どうして皆、私の前から居なくなるの……!  父様も、ルカ様も、貴方まで……嫌だ……嫌だよ……!!」

その声は、剣より鋭く俺の胸を裂いた。
彼女は膝をつき、床を叩き、嗚咽をあげた。
涙が止まらない。叫びが止まらない。

「どうして、私だけ……生きなくちゃいけないの……やだよ……!」

そこに居たのは、もう剣として生きた者ではなかった。
ただの、1人の女だった。

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