• テキストサイズ

黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第18章 if もしもあの時、止めていたら。


彼女は唇を噛み、深く視線を落とす。
今にも崩れ落ちそうなその肩を、俺は両手で支えた。

「今は……ダメだ。そんな身体で行かせるわけにはいかない」
「……ッ」
「明日だ。夜が明けたら、俺が一緒に行く」

その言葉に、彼女はようやく力を抜いた。
肩が落ち、頭が沈む。
それでも、瞳だけは決して死んでいなかった。
明日へ――たった一晩だけの猶予を、彼女は選んだ。



翌朝:別れ

朝日が昇り始めた頃、戦場はもう戦場ではなかった。
血の匂いは風に攫われ、焼け跡は片づけられ、旗はどこかへ回収されている。
そこに残っていたのは、布に覆われた担架――ただ一つ。

布が静かにめくられる。
その下にあるのは、あの日あの時まで「絶対」だと思っていた人の、あまりにも静かな顔だった。

血の気を失っても、その表情はなお威厳を保ち、誰よりも美しかった。

「……ルカ様」

アルネリアは名前を呼んだ。
その声が音になった瞬間、崩れ落ちるように彼の胸元へすがりつき、泣きじゃくった。

剣としてではない。
ただひとりの女として――あの人の名を愛した者として。

/ 123ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp