第17章 最終章 黒の王と白の剣
身を屈め、彼女の耳元に口を寄せる。
誰にも届かない声で。
「アルネリア……俺は、お前を――」
言い切らない。
言い切ってしまえば、彼女の選んだ最期に、俺の色が混ざる。
それは違う。
この言葉は、俺だけの火として、胸の底で燃え尽きるまで無言でいればいい。
立ち上がれずにいる俺に、朝日が差す。
光は赤く、それから薄金に変わる。
世界は続く。
主も剣もいない世界が。
「……すまない」
遅すぎる、価値のない言葉。
それでも、今の俺を俺に繋ぎ止める最後の糸だった。
風が吹き、血の匂いを流していく。
砂に半ば埋もれた刃先が、一度だけ光を返した。
それが、白き剣の最後の瞬きだった。