第3章 狂皇子との出会い ー血の契約 (ルカ視点)
報告を受けたのは、夜明け前だった。
夜警の兵が、血に濡れた男を抱えて戻ってきたという。
男は息絶える寸前、掠れる声で言った。
「村が……焼かれ……皆殺しにされた」
そして、最後に一言――
「都市同盟の軍旗が翻っていた」と。
報告を受けた参謀の顔が青ざめ、すぐにルカのもとへ駆け込んだ。
石造りの執務室。机上の蝋燭が揺れ、橙の光が壁に長い影を落とす。
沈黙の合間を、蝋が滴る音だけが満たしていた。
「……あの辺境か。」
低く、氷のような声。
だがその奥底で、微かな熱が脈を打つ。
怒りとも、侮辱への反応とも違う――もっと原始的な衝動。
軍の守りを持たぬ村であろうと、そこはハイランドの地だ。
それを焼いたというのは、王国そのものを侮ったに等しい。
「舐めた真似を。」
ルカ・ブライトは立ち上がる。
青のマントが静かに広がり、影が床を這う。
「キバ、シード、クルガン、ソロン・ジー。精鋭を連れてこい。
……奴らに、ハイランドの怒りを思い知らせてやる。」
命令は短く、冷ややかで、絶対だった。
鎧の音が廊下に消え、残るのは燭の音だけ。
月が沈みきらぬ夜明け前、数十の兵が出立した。
青いマントが風を裂き、ルカの瞳には冷たい光が宿っていた。
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村に着いた時、すべてはすでに終わっていた。
人の声はなく、焦げた木と崩れた屋根。
血と灰の匂いが、夜気に溶けていた。
「……酷い有様だな。」
クルガンが低く呟く。
その声に、わずかに警戒が混じる。
シードが辺りを見回し、眉をしかめた。
「死体が少ねぇな。焼け跡の数に合わねぇ。……誰かが片づけたな。」
ルカは沈黙のまま、黒い血痕を辿る。
焼け跡を抜けた先――そこに、異様な光景があった。