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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第15章 幕間 月に注ぐ淡い光


Ⅲ. ふたりの寝室

扉が閉じると、静けさが戻る。
寝台へそっと下ろし、布団の皺を掌でならす。
鎧の金具をひとつずつ外し、肌に触れない角度で留め布を抜く。
額に触れて、汗を親指で拭った。

「侍女は要らん。俺がやる。」

火を強め、窓の隙間を狭める。
湯、温石、薄荷と生姜の煎じ、白湯――
短い指示が廊下に流れ、間を置かず整った。

温石を布で包み、下腹にそっと置く。
「熱すぎないか。」

「……ちょうど、いいです。」

浅かった呼吸が、ひとつ深く落ちる。
ルカは椅子には座らず、寝台の端へ。
銀の髪を指で梳き、鬢の一房を耳の後ろへ戻す。
胸元の留め具を少し緩め、布団の重さを均す。

「飲め。」

差し出された白湯を、両手で受け取る。
「……ありがとうございます。」

「ゆっくりでいい」

一口、また一口。
温度が喉を通って腹へ降りるたび、痛みの輪郭が薄くなる。

「……申し訳、ありません。訓練を止めてしまって。」

「俺が止めた。」

言葉は乾いているのに、温度がある。
アルネリアは、唇だけで小さく笑った。

「迷惑を……かけていますか。」

「かけている。」

即答。
続きが来る前に、髪をそっと撫でる手つきが落ちる。
「だから、ここにいろ。」

命令。
けれどその形を借りた甘やかしだと、身体のどこかが理解する。

やわらかな沈黙が落ちる。
火の爆ぜる音、温石の熱、手の重み。
波がひとつ引き、まぶたが半分だけ下りた。

「眠れ。」

「……はい。」

瞳が閉じた瞬間、額へ短い口づけ。
誰にも見せるつもりのない、個人的な儀式のように。


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