第13章 休戦の夜
◆ルカの夜
夜。椅子に腰を下ろし、グラスを揺らす。
注がれているのは、彼女と飲んだものと同じ銘柄。
兵に命じて取り寄せさせた。理由は、うまく言えない。
(……どうしたというんだ、俺は)
戦場で血を浴びても何も感じなかった。
あの夜――俺の手に頭を預け、声もなく涙をこぼしていた女。
その髪を撫でた感触だけが、なぜか今も離れない。
冷静な女が、俺の掌ひとつで、静かに崩れていった。
彼女が泣き終えて眠りについた後、部屋から離れるつもりだった。
ただ――放っておけなかった。
そして、彼女の寝床へと入り、抱き止めて寝た。
息を吐き、ワインを含む。
香りが立つたび、彼女の髪の匂いが甦る。
指先にはまだ、夜のぬくもりが残っている気がした。
グラスを置く音が、やけに大きく響く。
窓の外には月。静かな、血のない夜。
それが、落ち着かない。
「……少しは、休めたか」
誰に向けたわけでもない言葉は、夜に紛れて消える。
それでも胸の奥では、確かに何かが動き始めていた。
まだ名も形もない。
けれど――戦とは違う熱を持っていた。