第13章 休戦の夜
「……はい」
背筋を伸ばし、敬礼して部屋を出る。
扉が閉まる音。ルカは小さく息を吐いた。
「……まったく。真面目すぎる」
口元に、ごく微かな笑みが触れた。
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◆アルネリアの静かな独白
部屋へ戻ると、夕暮れが輪郭を柔らかくしていた。
橙の光がカーテンの隙間から床に落ち、埃が金の粒のように舞う。
机には、昨夜のグラスが二つ。
ただのガラス以上のものが残っている気がした。
縁に指を置く。少し冷たく、どこか温かい。
──あの夜は夢ではない。
ベッドに彼の気配を感じ、目を覚ました。
問おうとして声が出なかった。
抱き寄せられた瞬間、胸の奥が熱くなり、
怖くて、嬉しくて、息が詰まった。
そして眠った。
思い出すだけで心が跳ね、頬が熱を帯びる。
彼は国の頂に立つ人。自分はその剣。それ以上でも、それ以下でもない。
なのに――どうして。
胸に手を当てる。鼓動はまだ速い。
それは恐れではなく、温かいものだった。
「……私は、愚かですね……」
小さく笑い、椅子に座る。
窓の外で軍の旗が夕日に揺れる。
平穏はいつまで続くのか。休戦は永遠ではない。やがて剣を取る日が来る。
それでも――
「……今だけは……」
祈るように目を閉じ、呟く。
「今だけは、陛下の隣で、生きていたい」
淡い願いは静かな風に混じり、どこかへ運ばれていった。