第13章 休戦の夜
主の前で、あまりに無礼なことをした――
あまつさえ、頭を撫でてなどと甘えたことも口にした。
その自覚が遅れて頬を熱くする。
「……謝らないと……」
立ち上がり、髪を整え、軍服に袖を通す。
布が肌を滑る感触で心を落ち着けようとするが、鼓動はまだ速い。
外へ出る。秋の風が頬を撫でる。
胸のもやを吐き出すように、深く息を吸った。
執務室へ向かう途中、訓練場を過ぎる。
木剣の音、鎧の金具の擦れる音、掛け声。
その中に、見慣れた二人の姿があった。
「おい、休暇中じゃなかったのか?」
シードの声は柔らかいが、目は鋭い。
隣でクルガンが腕を組み、無言で見ている。
「……部屋に籠っているのは、少し性に合わなくて」
そう言うと、シードが肩をすくめた。
「なるほど。だが無理はするな。陛下から“二日間は休ませておけ”と直々に言われてる。俺たちが怒られる」
「……そう、でしたか」
苦笑する彼女に、クルガンが短く頷く。
「お前ほどの働き手が倒れては困る。命令には従え」
「はい……ありがとうございます」
去ろうとすると、シードが声を低める。
「――なぁ」
「?」
「顔色が悪い。……何かあったのか?」
からかいではない、真剣な声音。
その視線が、昨夜の痕まで見透かすように鋭い。
(……見透かされてる……?)
「いえ。何でもありません。……陛下はどちらに?」
「ふーん、そうか」
シードはそれ以上追及せず、片手を上げる。
「陛下は執務室だ」
「ありがとうございます」
敬礼して背を向ける。
背後でクルガンがぼそりと呟く。
「……様子が少し違うな」
「だな」
シードが笑みを薄め、目を細める。
「休暇中なのに、剣より難しい顔してる」
風に混じって小さな声が届いた。
「そういや陛下がアルネリアの部屋から出てきたのを見かけたって兵がいたな。」
「陛下が絡んでいるなら難しい顔もするだろう」
「だな」