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黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第2章 狂皇子との出会い — 血の契約


声は平静を装っていた。謝罪というより、すでに己が下した宣告のようでもあった。生き延びた意味を自ら断とうとする意思が滲むその姿に、ルカの口元が僅かに歪む。

しばしの沈黙の後、彼は低く訊ねる。
「都市同盟を、憎んでいるか。」

問いは単純だが、アルネリアの胸中では焼けた家屋の光景、父の倒れる背、母の裏切りの言葉が瞬時に蘇った。心に潜むものはもはや激情の炎ではない。凍りついた決意だった。

「……憎んでいます。」

その声は穏やかな硝子のように冷たく、しかし揺るがぬ確信を携えていた。ルカはその答えに、微かな満足を含んだ笑みを見せる。

「そうか。なら、死ぬには惜しい。」

彼は立ち上がり、部屋を半分闇に沈める高い影となる。声には命令でも慈悲でもない、ただ確信だけが宿っていた。
「ここで命を捨てるくらいなら、俺のために使え。」

「……貴方のために?」

男の声は低く、氷を割るように澄んでいた。
「お前の剣はまだ折れていない。その刃を、俺の敵――都市同盟へ向けろ。俺の剣となり、奴らを蹂躙しろ。」

言葉は冷酷に響くが、彼女の内部の何かを打ち鳴らした。死の淵から戻った魂に、初めて熱が戻るような感覚。アルネリアは目を伏せ、震える息を整えながら言った。

「…村で。仇は打ったはずです。父を殺した兵も、村を売った母も。けれど、この胸に残ったものを、どこへ向ければいいのか分かりません。それが……陛下の敵を斬ることで果たされるのなら、この命は構いません。」

その覚悟に、ルカの口元が裂けるように笑った。笑いは嘲りか賞賛か、境界が曖昧だった。彼はゆっくりと懐から短刀を抜き、刃先に自らの指を当てて血を一滴垂らす。赤が冷たい鉄を伝い、黒い木の机に落ちる。

「この血を受けろ。お前の命は、今日から俺の剣だ。裏切れば、その血が灼いてお前を殺すと思え。」

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