• テキストサイズ

黒の王と白の剣 幻想水滸伝Ⅱ 夢

第2章 狂皇子との出会い — 血の契約


目を開けると、見知らぬ石の天井が視界に入った。冷たい石壁が周囲を取り囲み、光は薄く、空気は乾いていた。手足に縛られた痕があり、起き上がるたびに節々が疼く。口を動かしても声が詰まり、喉が砂を噛むように痛む。

「……ここは?」

低く響く声が耳に届き、反射で体がこわばる。鎖が鳴り、包帯の下で古い傷が裂けるような鋭い痛みが走った。枷が手首と足首を縛り、起き上がることを許さない。

「目が覚めたか。」

声の主は青いマントの男だった。椅子に腰掛け、冷ややかな姿勢で腕を組む。彼の瞳は氷のように澄んでいるが、その奥に不穏な光がちらつく。ルカ・ブライト——彼は村で、最後に彼女を倒した者だ。

「殺すつもりなら、治療などしない。」

ゆっくりと腰の剣を外し、机に置く。アルネリアの目に映るのは、幾重にも巻かれた包帯と、整えられた布団。額には冷たい布が当てられている——生かされているという事実が、じわりと理解として落ちてきた。

「ここはどこですか」彼女は務めて淡々と問うた。声はまだ震えている。

「ハイランド領、皇都ルルノイエだ。」

その名に、アルネリアの眉がひそむ。故国の名。ならば、彼は敵では無い。とはいえ、自分に切りかかってきた女をなぜ生かしているのか、疑念が胸をよぎる。だが、彼の名だけは噂で知っていた。戦場の獣、狂皇子と呼ばれる男の名を。

「俺はルカ・ブライト。この国の皇子だ。お前は、あの村の生き残りか。」

「……はい。」

ルカの声は冷ややかに続く。
「俺達が着いたとき、いくつかの墓と死体の山があった。村を襲ったのは都市同盟の兵だ。だが、奴らは全部切り伏せられていた。お前の手か?」

アルネリアは唇を噛んで、小さく頷いた。答えは短く、余分な感情は抑えられていた。彼女の内部はもはや激情ではなく、深い均衡を崩した冷たさが満ちていた。

ルカは彼女の瞳をじっと見据える。まるで魂の奥を覗くかのように、その視線は容赦がなかった。捕食者が未知の獲物の強さを測るように。

「剣を向けたのは、都市同盟の兵と見間違えたからか?」

「……申し訳ありません。治療していただいたことには感謝します。ですが、私は――貴方に剣を向け、兵を傷つけました。罰を受けます。」
/ 123ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp