第13章 休戦の夜
渋み、甘み、そして静けさ。
戦場の風しか知らぬこの部屋に、穏やかな時間が流れた。
炎の明滅が壁を揺らし、影が重なる。
その横顔に、思わず息が詰まる。
いつもと何も違わぬはずなのに、今夜だけは違って見えた。
冷たい銀が、少しだけ温もりを帯びていた。
それでも、彼女は礼節を欠かさない。
彼のグラスが空になれば立ち上がり、ゆっくりと、丁寧にグラスををみたしていく。
やがて彼女のグラスが空になる。
新たに注ごうとする手を、俺はそっと止めた。
ボトルを取り、彼女のグラスにほんの少しだけ注ぐ。
「無理をするな。」
「……ありがとうございます。」
頬の紅のせいか、声音が少し幼く聞こえた。
言葉はそれ以上要らなかった。
炎の揺らめきが、グラスの縁に小さな輪をいくつも重ねる。
彼女はそれを目で追っていた。
まるで胸の奥の栓を、そっと押さえるように。
「……父様が、好きだったお酒なんです。」
「……そうか。」