第13章 休戦の夜
二十の祝いにシードが飲ませたときも、一杯で机に伏せ始めるほどだった。
それ以来、酒に触れることは進められた時しか無かった。
それなのに――今、彼女は自ら酒を注いでいる。
赤い筋が二本。すでに二杯目だと知れた。
「……父の墓前に供えた酒です。捨てたくなくて……」
か細い声。
普段の彼女からは想像もできぬほどの弱さだった。
俺は机を見下ろし、言葉を挟まずに部屋を出た。
やがて戻り、手に新しいグラスを持って立つ。
「注げ。」
慰めより先に命令がある。
彼女は一瞬驚いたように目を瞬かせ、首を振った。
「……人の墓前に捧げたものを、陛下が口にするなど。」
「飲めぬ酒を無理に飲む方が、酒にも、墓前の者にも失礼だ。」
静かな声が夜に沈む。
彼女は逡巡し、瓶を手に取った。
深紅の液が静かにグラスに落ち、蝋の灯を映して揺れる。
香りが部屋の空気を少しだけ変えていく。
乾杯の言葉はない。
二人でほぼ同時に口をつけた。