第13章 休戦の夜
二日間、と言っていた。
だが、まだ一日も経っていない。
しかも自ら「二日間は部屋に誰も入れるな」と進言しておきながら。
足が止まり、視線だけがその影を追う。
彼女は迷いなく自室に入り、音もなく扉を閉めた。
やがて、ほのかな灯が灯る。
――なぜだ?
詰問するつもりはなかった。
だが胸の奥に、小さな違和が、波紋のように広がる。
数分ののち、確かめるように扉を軽く叩いた。
内側で、小さく息を呑む気配。
「……二日間は城を離れると言っていたな。」
短い沈黙。やがて押し殺した声が返る。
「……申し訳ありません。その……」
声は普段どおりなのに、縁がわずかに震えていた。
理由を言わずに言葉を濁す。
俺は短く息を吐き、扉を開けた。
⸻
鎧を脱ぎ、銀の髪をほどいた彼女がいた。
肩甲骨の下まで流れる髪が、淡い灯に照らされて柔らかく光る。
いつもは鉄と血の匂いを映す銀が、今夜は水面のように静かだった。
ただ、頬に薄い紅が差している。
机にはワインの瓶と、減っていないグラス。
彼女は酒に極端に弱い。