第13章 休戦の夜
彼女の口から出た言葉に、思わず眉をひそめた。
今まで一度として望みを口にしなかった女が、初めて願いを示したのだ。
しかも──「二日間、城を離れたい」と。
「……陛下。休戦協定の間、二日ほどお暇をいただけませんか。」
静かな声。その奥に、かすかな逡巡が滲んでいた。
彼女は常に命令で動き、命令がなくとも戦の匂いがすれば迷いなく進む。
戦が始まれば誰よりも早く前線に立ち、誰よりも遅く退く。
鎧を纏い、剣を離さぬ――まさに“戦場そのもの”の女。
そんな彼女が、自ら城を離れたいという。
理由を問うのは簡単だった。
だが、その瞳を見た瞬間、言葉が喉で凍る。
問えば、壊れてしまう気がした。
薄氷のような脆さが、一瞬だけその奥に差したからだ。
「……行け。ただし――三日目には戻れ。」
「はっ。ありがとうございます、陛下。」
深く頭を垂れる姿に、五年の忠誠の重みがあった。
くだらぬ休戦協定のおかげで戦もない。断る理由など、どこにもない。
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夜の城は、音をよく吸う。
衛兵の足音が遠くで反響し、燭台の炎が金の明滅を刻む。
その先を歩く影に気づいた。
深くフードを被ったローブ姿――見慣れぬ装い。
すれ違う一瞬、月光が頬をかすめる。
銀の髪。
血の色をよく映す、冷たい輝き。
……彼女だ。