第11章 幕間 剣を見つめる者たち
初めて彼女と剣を交えた日の感覚を、クルガンは今でも忘れない。
一太刀目で分かった。
“斬る”ために生まれ、“斬る”ことだけを己の存在理由としている剣だと。
あのときまだ十八そこそこだったはずだが、刃の軌跡は老練な戦士と何ら変わらなかった。
――この娘は、生まれた時から戦うために鍛えられてきた。
それが、最初の印象だった。
そして長らく、それは間違っていなかった。
彼女は斬り続けた。迷わず、怯まず、ただ“命じられたままに”。
剣を振るうために在り、剣であることに疑いなどなかった。
だが――
「……少し、歩き疲れました」
今、隣を歩く彼女の声は、あの日のそれとまったく違う響きを持っていた。
戦場では決して聞けなかった“人の吐息”が、そこにある。
「なら、休むといい」
「いえ、大丈夫です。こういう時間も……悪くありませんので」
“悪くない”という言葉。
彼女の口からそれを聞くたびに、クルガンは心のどこかが静かに揺れる。
剣にとって“良し悪し”は勝敗にしか存在しない。
だが、“人”にとってのそれは、生きることの中にある。
それを彼女が口にするようになったことが――何よりの変化だ。
***
彼女の剣筋は、今でも美しい。
研ぎ澄まされていて、無駄がない。
それは帝国軍の誰よりも鋭く、誰よりも速い。
だが、最近はそこに「柔らかさ」が混じるようになった。