第11章 幕間 剣を見つめる者たち
「アルネリア」
「はい」
「……いや、なんでもねぇよ」
言いかけて、やめた。
“なんでもねぇ”って言葉で誤魔化した心の奥が、微かに熱い。
何かを伝えたいわけじゃない。
それでも、目が離せない。
気がつけば、彼女の仕草一つひとつに神経が向いている。
「本当に、なんでもないのですか?」
「だから、なんでもねぇって」
「……そうですか」
不思議そうに首を傾げる仕草が、ほんの少しだけ“女”に見えた。
剣じゃなくて、人間の女として。
その瞬間、心臓が一拍、速く打った。
***
夕暮れが街を包み始める頃、俺たちは並んで歩いていた。
並んでいる――ただそれだけのことが、妙に心地いい。
「今日は、楽しかったです」
「おう。……俺もだ」
言葉はそれだけ。
でも、それで十分だった。
俺は彼女の隣を歩く。
戦場でも、日常でも、その刃がどこへ向かおうとも、同じ方向を見ていたいと思った。
“好き”とか“恋”とか、そんな名前をつけるにはまだ早い。
ただ――
「……お前、笑ってる方がいいな」
「そう、ですか?」
「おう。剣の顔より、ずっといい」
彼女は少しだけ黙って、空を見上げた。
その横顔は、斬撃よりもずっと鮮烈で、記憶に焼きついた。
もしかしたら、俺はもう――
いや、考えるのはやめておこう。
今はまだ、“仲間”のままでいい。
それでも、この気持ちが消えることは、もうない気がした。