第11章 幕間 剣を見つめる者たち
彼女が軍に入ってから。最初の印象は、正直言って“怖ぇ”の一言だった。
目つきも声も、剣そのもの。感情なんてものは削ぎ落とされて、ただ「斬るため」に歩いているような女。
俺の軽口にも眉ひとつ動かさず、「邪魔なら斬ります」と平然と返すあの冷たさ――
……正直、最初の頃は、話しかけるたびに首筋が寒くなった。
けれど、今はもう違う。
「ほら、足元気をつけろよ」
「ありがとうございます。……大丈夫です」
石畳の上、彼女は淡々と歩く。
街の中を、剣を下げていない姿で歩く彼女なんて、初めて見る。
……いや、剣は腰にある。だが、戦場で抜くためじゃない。
今日はただ、歩くためにある。
それだけのことが、妙に新鮮だった。
「なぁ、アルネリア」
「なんでしょう、シード」
「こうやって一緒に歩くのって、変な感じだな」
「そうですか?」
「戦場以外で一緒にいるのって、初めてじゃねぇか?」
「……言われてみれば、そうですね」
軽く笑った気配が、風の中に紛れた。
ほんの僅か――けれど確かに、彼女は笑った。
“笑った”ってだけで、胸が少しだけ跳ねるのは、どうしてだろうな。
***
露店を覗き込む彼女の後ろ姿を、知らず知らずのうちに目で追っていた。
いつもは背中に「刃」が刺さっているような空気をまとっているくせに、今日はどこか柔らかい。
指先で小さな布を撫でて、ほんの少しだけ迷っている。
「……これなど、どう思われますか?」
「似合うんじゃねぇか? ……お前にも、だし」
「私に、ですか?」
「いや、今のは忘れろ」
言った瞬間、しまったと思った。
戦場じゃ舌は冴えるのに、こういうときだけ、頭が回らねぇ。
「ふふ……珍しいですね、シードが言葉に詰まるのは」
「うるせぇ」
頬を掻いてごまかす。
何でもないやりとり――のはずなのに、妙に息が詰まる。
仲間だ。
同じ剣として、同じ戦場を歩む同志だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
……はずなのに。