第10章 幕間 剣ではない時間
「……選ぶというのは、難しいのですね」
「だからこそ、楽しいんだよ」
シードが笑う。「戦場じゃ“最善”しかない。でも贈り物は、“最善”じゃなくてもいい。“自分らしい”があればそれでいいんだ」
「自分らしい、ですか」
「そうだ。お前らしくて、陛下が受け取ったときに“らしい”と思うもの。それが一番の贈り物だ」
その言葉が、静かに胸に落ちた。
剣としての“らしさ”ではなく、
ひとりの人間としての“らしさ”――それが、今までの自分にはなかったものだ。
***
日が傾き、石畳が橙に染まる頃、四人は広場のベンチに腰を下ろした。
買い物袋の中には、選び抜かれた“候補”たちが静かに収まっている。
「……これだけ見ても、まだ決めきれません」
「それでいいんですよ」クラウスが微笑んだ。「今日決まらなくても、“考える”ということ自体が、すでに贈り物の一部です」
「考えること自体が、ですか」
「はい。陛下のことを思って選ぶ。それこそが“剣ではないあなた”の証でしょう」
アルネリアは、手の中の布をそっと握りしめた。
香りが指先に移り、風と混ざって消えていく。
それは、今までの戦場の匂いとは違う“生の匂い”だった。
「……悪くありませんね。剣ではない時間というのは」
「だろ?」
シードが肩を叩く。「次は飯でも行こうぜ。腹が減った」
「お前はいつも食う話ばかりだな」
クルガンが呆れた声を出し、クラウスは「それも人間らしさですよ」と笑った。
剣ではない時間。
そこには、戦も命令も、血の匂いもない。
あるのはただ、“生きている”という実感だけ。
アルネリアは空を見上げた。
暮れゆく空の色は、いつか見た戦火の赤とは違う。
それは、どこまでも穏やかで、どこまでも優しい“生”の色だった。